みなさま、こんにちは。
地糸泥染め担当の金井です。いつもご覧頂き、ありがとうございます。
今回は奄美大島の泥染めに欠かせない、方言でテーチ木(和名:車輪梅)と呼ばれる植物と染めについて、記述させて頂きます。泥染めと言葉で聞くと、泥で染めると思われる方が多いと思います。
各工程分担業で製造している本場奄美大島紬、その泥染染色を行っている当工房に来られた方にも、よく尋ねられる事柄です。判りやすく伝えると奄美大島の泥染めは、テーチ木に含まれる成分を絹糸に染め付かせ、鉄分豊富な泥田で反応させる技法になります。(泥純黒になるまで80〜100回近く染め重ねたり、細い作業が多くあります)
なのでテーチ木という植物が泥染めとは切り離せないものとなります。↑ 奄美で3月〜4月頃の花が咲いているテーチ木
梅に似た白い小花、花の形や放射状の葉や小枝が車軸のように見えることから、この名が付いたとされています。
各地方でも見ることができ、宮城・山形県以南から九州、沖縄の海岸付近に自生するバラ科シャリンバイ属の常緑低木となります。乾燥や大気汚染に強く、刈り込みにもよく耐えるため、道路脇の路側帯などに植栽されることが多いです。奄美でも防潮林・防風林として畑や敷地の垣根などにも多く使用されています。また奄美市の市花にも指定されています。
↑採取した車輪梅を計る
↑採取したものは生木の状態でチップ状に砕いて行きます。
お茶やワイン、柿等の様々な植物に含まれるタンニン酸は植物が身を守るための防衛物質だと考えられています。植物も、細菌、ウイルス、真菌類から身を守らなければなりません。奄美の場合は強い風や潮などの環境下と、島の土壌による影響で濃度の高いタンニン酸を含むテーチ木が自生しているということです。
自生しているテーチ木を自ら山に入り、おおよそで樹齢10年以上、根は残し、幹の部分を選んで採取しています。幹の芯や樹皮は既に赤く、この色の染料作りに入ります。
↑1日目チップ状に砕いたテーチ木を煮出している
↑2日目、大釜に入っている柵をあげた様子
昔の単位で作られいる1000斤釜に600kgの車輪梅を入れ、1,2日目両日で合計16〜18時間この大釜を焚きます。その際、少し甘い香りが工房に広がります。2日焚いた後は3〜5日寝かせ、1週間ほどで染料つくりを終えます。火は前回炊き終えたチップを再燃料として薪代わりにします。テーチ木の木灰は奄美では郷土菓子の灰汁巻きや、畑に巻いたり、アルカリが高いので藍染め発酵灰汁建てや、染色助剤、また陶芸の釉薬などに使われます。ここだけでも知恵の詰まった循環になっています。染料を寝かせている間は菌が生きているのがわかる様な光景が見れ、非常に面白いです。
この模様は工房の映像でご覧頂けます。(←クリックでジャンプします)
↑左が原液の1番液、右は使い古しの2番液
↑今回のプロジェクトの絹糸(一部)
ここから初めて染めが始まります。1週間かけて出来たテーチ木染料の2番液で下染めをしていきます。
↑2番液で下染め
↑素手で揉み込み染色していく
テーチ木染料はタンニン酸、染めを促進させるために石灰もアルカリを用い、中和させて染めて行きます。使い古しの2番液はそのアルカリ分はあり中和に近く、下染めになどに用います。常温での染色となるので、素手でしっかりと揉み込み染色していきます。石灰はその昔、珊瑚の死骸を焼いて砕いたものをアルカリとして用いた経緯になります。
糸を突き竿へ干して下染めを終えます。この下染めから多くの回数染め重ね、本場奄美大島紬の純泥黒へと工程が進んで行きます。